咲かない桜の物語。
04.たとえば咲かない桜が咲くときは
「太輔」
「んぁ?」
呼べば返ってくる、間抜けな声。
間抜けだと思っていても、それが愛しい自分がいるから救えない。
「学園七不思議とかでさ、『咲かない桜』ってあるじゃん」
「あーあるある」
「…で、その桜が咲く瞬間を見れたら幸せになれる、とかさ」
学園七不思議。咲かない桜の伝説。
そんな御伽噺、存在しない――とは、言い切れない存在である、自分。
――能力者。普通の人間からしたら十分に絵本の中の存在たりえる自分たち。
非現実さは同等だな、などと考えて僅かに苦笑する。
「どした?」
「ん…いや、何でもない」
「それで、咲かない桜がどうしたって?」
「あぁ…」
咲かない桜の物語。
桜咲き誇る春ただ中、立った1本緑の桜。
咲かない桜が咲かないのは、ただひとつの想いのため。
自分が咲くたび微笑んだ、愛しいあの人への想い。
桜はただひとりの待ち人を永い時の間咲かずに待ち続ける。
「…何でもない」
「うっわ、歯切れ悪ッ!言えよー!」
「五月蝿い。…そんなに『隔離』して欲しいんだ?」
「ゴメンナサイ」
「それでいーの」
咲かない桜の物語。
咲かない桜は待っていた。誰より愛しいあの人を。
待って待って待ち続けて、諦めさえ感じ始めた幾度目かの春。
『会いに来たよ』
聞こえた声は忘れようのない声。
『咲いておくれ、私のために』
その言葉を待たずとも、桜はその花弁を勢いよく開いた。
咲かない桜が咲き誇る。
吹き荒れる春色の嵐、その中心に愛しい笑顔。
桜は祈る。ああどうかこの時よ永久にと。
「じゃあオレ、行かなきゃ…葵が呼んでる」
「…ん」
「また後でな」
遠くなる背中を眺める。
行かないでと言えば、行かないでいてくれたのだろうか。
困らせたくはないから、言わないけれど。
2年前、逃げようと言ったときを思い出す。
『あの頃』の自分なら、言ってしまったかも知れない。
2年間という月日は、自分を少なからず変えていた。
ありがたいようで、ありがたくないものではあったが。
「…太輔」
届かない声で名前を紡ぐ。
想う心は行き場なく、ただ捻くれた言葉になるばかり。
たった一つの心の居場所、愛しい人。
手の届く場所にある今でさえ、何故か遠かった。
咲かない桜の物語。
桜の季節が終わる頃、桜の愛しい人は言う。
『悲しいが、私はもうお前には会えない』
悲しいのは桜も同じ。待って待ってようやく会えた想い人。
会えぬことなど、認められず。二度と咲くまいとさえ思い。
それでも彼の人はこう言うのだ。
『それでも、お前は咲いておくれ。私のために、皆のために。
お前が美しく咲き誇る姿を、たくさんの人に見せておやり。
そしてその咲き誇るお前の姿が、どこにいても私に届くように』
僅かに残った花弁を、一陣の風が散らしていく。
…風が止んだとき、そこに愛しい人の姿はなく。
「だーれだっ?」
「…た…いすけ…?」
「あったり~!」
どれほどの間、放心していたのか。
ぼんやりしてる間に、後ろに回りこまれたらしい。
全くなまったものだ。
…いや、それよりも、何故彼がここにいるのか。
葵に呼ばれていったのではなかったのか。
「何、やってんの」
「ん?目隠し!」
「そーじゃなくて!何でっ…」
「いやー、ユータがあんまりにも不景気な顔してっからさ。戻ってきたんだよ。
葵には悪かったけど、こんなユータ置いてくわけにもいかないなーと思ってさ」
「な…不景気って…」
そんな顔を、していたのだろうか。
心配になって、戻ってくるような…顔を。
でも、心配をかけさせて悪いと思う心のどこかに、自分を優先してくれて嬉しいと思う自分がいて。
「ユータはさ、笑ったほうがいいよ。オレ、笑顔のほうが好きだな。
ユータが笑わないと、なんかさ…こう、不安になるっつーか。
大切な人が辛そうな顔してんのって、誰だっていやだろ?
反対に、ユータが笑ったら、オレももっと笑えるよ。
うーん…上手く言えないけど…そんくらい、大切なんだ、ユータのこと」
にこっと、ふわっと、笑って。
その笑顔に、もしかしたら自分の顔は赤くなっていたかもしれない。
大切な人だと言われたのが、ただ、ただ、嬉しくて。
「…あははっ!だからって目隠しかよ!子供っぽすぎ!」
「なにおう!?け、結果として笑ってんだからいいだろ!!」
あぁ、今ならば桜の気持ちが分かる。
オレは太輔の桜。太輔はオレの桜。
ねぇ、オレも太輔が笑ってくれるのが嬉しいから、笑うよ。
本当は、オレも大切だよ、と言いたかったけれど。
それはまた今度、…全てが終わったその後で、もっと、笑っていられるときに。
そう、たとえば――。
咲かない桜の物語。
咲かない桜は今年も咲く。
春が来るたび、咲き誇る。
自分の姿が、愛しい人へ届くと信じ。
咲かない桜が、咲き誇る。
咲かない桜の物語。
それはいつしか伝説となった。
伝説の桜、それが咲く瞬間に立ち会ったなら幸福になり、
伝説の桜、その下で誓った想いは永久になると。
伝説の桜の咲く地での、想い人への告白科白。
『 どうか、私の傍にいつまでもいてください。
どうか、その笑顔を絶やさないでいてください。
たとえば、咲かない桜が咲くときは、私の隣で微笑んで 』
fin
atogaki
【夢食らう月の裏の足音】様へ捧げます、相互記念小説。
『たゆ小説』とのリクでした…が…。
…とりあえず先に謝っときます。ゴメンナサイ。
つーか何でこんな訳分からんお題作ったんだ自分!?
咲かない桜の話、思いっきり捏造です。信じないように!(誰も信じんよ
04.たとえば咲かない桜が咲くときは
「太輔」
「んぁ?」
呼べば返ってくる、間抜けな声。
間抜けだと思っていても、それが愛しい自分がいるから救えない。
「学園七不思議とかでさ、『咲かない桜』ってあるじゃん」
「あーあるある」
「…で、その桜が咲く瞬間を見れたら幸せになれる、とかさ」
学園七不思議。咲かない桜の伝説。
そんな御伽噺、存在しない――とは、言い切れない存在である、自分。
――能力者。普通の人間からしたら十分に絵本の中の存在たりえる自分たち。
非現実さは同等だな、などと考えて僅かに苦笑する。
「どした?」
「ん…いや、何でもない」
「それで、咲かない桜がどうしたって?」
「あぁ…」
咲かない桜の物語。
桜咲き誇る春ただ中、立った1本緑の桜。
咲かない桜が咲かないのは、ただひとつの想いのため。
自分が咲くたび微笑んだ、愛しいあの人への想い。
桜はただひとりの待ち人を永い時の間咲かずに待ち続ける。
「…何でもない」
「うっわ、歯切れ悪ッ!言えよー!」
「五月蝿い。…そんなに『隔離』して欲しいんだ?」
「ゴメンナサイ」
「それでいーの」
咲かない桜の物語。
咲かない桜は待っていた。誰より愛しいあの人を。
待って待って待ち続けて、諦めさえ感じ始めた幾度目かの春。
『会いに来たよ』
聞こえた声は忘れようのない声。
『咲いておくれ、私のために』
その言葉を待たずとも、桜はその花弁を勢いよく開いた。
咲かない桜が咲き誇る。
吹き荒れる春色の嵐、その中心に愛しい笑顔。
桜は祈る。ああどうかこの時よ永久にと。
「じゃあオレ、行かなきゃ…葵が呼んでる」
「…ん」
「また後でな」
遠くなる背中を眺める。
行かないでと言えば、行かないでいてくれたのだろうか。
困らせたくはないから、言わないけれど。
2年前、逃げようと言ったときを思い出す。
『あの頃』の自分なら、言ってしまったかも知れない。
2年間という月日は、自分を少なからず変えていた。
ありがたいようで、ありがたくないものではあったが。
「…太輔」
届かない声で名前を紡ぐ。
想う心は行き場なく、ただ捻くれた言葉になるばかり。
たった一つの心の居場所、愛しい人。
手の届く場所にある今でさえ、何故か遠かった。
咲かない桜の物語。
桜の季節が終わる頃、桜の愛しい人は言う。
『悲しいが、私はもうお前には会えない』
悲しいのは桜も同じ。待って待ってようやく会えた想い人。
会えぬことなど、認められず。二度と咲くまいとさえ思い。
それでも彼の人はこう言うのだ。
『それでも、お前は咲いておくれ。私のために、皆のために。
お前が美しく咲き誇る姿を、たくさんの人に見せておやり。
そしてその咲き誇るお前の姿が、どこにいても私に届くように』
僅かに残った花弁を、一陣の風が散らしていく。
…風が止んだとき、そこに愛しい人の姿はなく。
「だーれだっ?」
「…た…いすけ…?」
「あったり~!」
どれほどの間、放心していたのか。
ぼんやりしてる間に、後ろに回りこまれたらしい。
全くなまったものだ。
…いや、それよりも、何故彼がここにいるのか。
葵に呼ばれていったのではなかったのか。
「何、やってんの」
「ん?目隠し!」
「そーじゃなくて!何でっ…」
「いやー、ユータがあんまりにも不景気な顔してっからさ。戻ってきたんだよ。
葵には悪かったけど、こんなユータ置いてくわけにもいかないなーと思ってさ」
「な…不景気って…」
そんな顔を、していたのだろうか。
心配になって、戻ってくるような…顔を。
でも、心配をかけさせて悪いと思う心のどこかに、自分を優先してくれて嬉しいと思う自分がいて。
「ユータはさ、笑ったほうがいいよ。オレ、笑顔のほうが好きだな。
ユータが笑わないと、なんかさ…こう、不安になるっつーか。
大切な人が辛そうな顔してんのって、誰だっていやだろ?
反対に、ユータが笑ったら、オレももっと笑えるよ。
うーん…上手く言えないけど…そんくらい、大切なんだ、ユータのこと」
にこっと、ふわっと、笑って。
その笑顔に、もしかしたら自分の顔は赤くなっていたかもしれない。
大切な人だと言われたのが、ただ、ただ、嬉しくて。
「…あははっ!だからって目隠しかよ!子供っぽすぎ!」
「なにおう!?け、結果として笑ってんだからいいだろ!!」
あぁ、今ならば桜の気持ちが分かる。
オレは太輔の桜。太輔はオレの桜。
ねぇ、オレも太輔が笑ってくれるのが嬉しいから、笑うよ。
本当は、オレも大切だよ、と言いたかったけれど。
それはまた今度、…全てが終わったその後で、もっと、笑っていられるときに。
そう、たとえば――。
咲かない桜の物語。
咲かない桜は今年も咲く。
春が来るたび、咲き誇る。
自分の姿が、愛しい人へ届くと信じ。
咲かない桜が、咲き誇る。
咲かない桜の物語。
それはいつしか伝説となった。
伝説の桜、それが咲く瞬間に立ち会ったなら幸福になり、
伝説の桜、その下で誓った想いは永久になると。
伝説の桜の咲く地での、想い人への告白科白。
『 どうか、私の傍にいつまでもいてください。
どうか、その笑顔を絶やさないでいてください。
たとえば、咲かない桜が咲くときは、私の隣で微笑んで 』
fin
atogaki
【夢食らう月の裏の足音】様へ捧げます、相互記念小説。
『たゆ小説』とのリクでした…が…。
…とりあえず先に謝っときます。ゴメンナサイ。
つーか何でこんな訳分からんお題作ったんだ自分!?
咲かない桜の話、思いっきり捏造です。信じないように!(誰も信じんよ
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